実家消滅

最近実家がなくなった。

私と、妹の進学をもって親が離婚したからだ。

 

最初は悲しくなかった。

そんなに良い家でもなかった、親の仲は悪く、妹も母も癇癪を起こし毎日怒鳴り声が聞こえる、父も酒を飲んで帰ってきて会話もない、さらにたまに機嫌が悪い、そんな日は大抵暴言を呟いていて、物に当たる。けどたまに家族みたいなこともした。

 

よくある家族仲の良くない家庭という感じ。

 

家賃の割に景色が良かった。

瀬戸内海に繋がる、小さい海が見えた。朝焼けが綺麗だった。

夏から冬、のぼる太陽がだんだん横にずれていくのがわかる家だった。

人の暮らしも、労働も、自然も、全てが見える家だった。

 

毎日同じ時間に川重の従業員のための時報が聞こえた。

時報があってもなくても私は変わらない。

けれど帰省の時に懐かしく聞いた時報は、小学校の給食時間を思い起こしたし、慌ただしく家を出る毎日も。

 

もう聞こえない。もう見えない。

 

こうなって初めて、キッチンの床に置いてあったいいちこ1800mlパックも、リビングの無駄に大きい平机も、柱の身長記録も、壁の落書きも、床に伸びてた父親も、図面を書いていた母の背中も、全てが懐かしく、美しく思えた。

 

寂しいな。